伝統技traditional

日本の伝統芸能における道成寺物の演出

2015.01.18

京都造形芸術大学の入学説明会を兼ねた一日体験入学で、「和の伝統文化コース」の講義を受けてきました。
講義テーマは大好きな「道成寺物」。能や歌舞伎の演目としても有名です。

まずは、基本となる道成寺の説話について。
法華経の仏教説話集『大日本国法華験記』の「紀伊国牟婁郡悪女」が元になっています。

若くて美しい僧に一目惚れした娘が「結婚して!」と迫ってみたものの、僧に裏切られ逃げられ、追いかけ回すうちに恋心が憎しみに変わり、毒蛇になって怒り爆発。道成寺の鐘の中に僧が身を隠していたら見つかって、鐘ごと僧を焼き殺し…。

ざっくり言うと「思い込みの激しい女ってコワイよね」っていう話なのですが、最終的には「恐ろしい毒蛇に変化してしまうほどに憎しみでいっぱいだった娘をお経で成仏させました」という仏教説法で締めくくられます。
安珍・清姫伝説」としても有名ですね。

そして能や歌舞伎の「道成寺」は、この仏教説話の後日譚という扱いです。
曲目(演目)の前半を簡単に説明しますと。

道成寺の鐘供養の場に訪れた白拍子。しかし、件の毒蛇娘のこともあって道成寺は女人禁制。それでも舞を奉納したいと願う白拍子は僧侶に頼み込み、鐘のまわりで美しい舞を披露。しかし、いつしかその白拍子の舞に変化が現れ、ついには鐘の中に入り込んでしまいます。

僧侶の祈祷によって鐘を持ち上げてみると白拍子に乗り移った恐ろしい蛇体が現れて…。

この後、能では蛇体となった後ジテが炎で鐘を焼こうとしますが、僧侶との戦いの末に観念した蛇体が自らを炎で焼き、日高川への身を沈める、となります。仏教のありがたみを説く説話を同じ流れです。

歌舞伎のほうは、怒り狂った蛇体が鐘を焼き払おうとして鐘に巻きついた状態で幕がおり、女性の恋心と怨念や執念を強烈に印象づけて終わる型が多いようです。
しかし、今回の講義で紹介された参考VTRは花道での押戻しがある正式(?)な型の舞台でした。
白拍子花子が十八代目中村勘三郎さん、押戻しが十二代目市川團十郎さんという大変貴重な「京鹿子娘道成寺(2010年1月歌舞伎座)」の映像だったので、先生の説明もろくに聞かずに見入っておりました。

能では「橋がかりから大きな鐘が登場し釣り下げられところから始まり、鐘後見と息を合わせた『鐘入り』があり、シテである白拍子が鐘の中で装束を替え、曲目が終わると鐘が去っていく」という鐘が主役となった構成ですが、歌舞伎では鐘は最初から舞台に登場していて「美しい白拍子が舞を奉納したいと願い出て、恋いにまつわる様々な女性の姿を踊り、衣装を替えながら1時間近くを一人で踊りきる」という、仏教説話は風化して一つの動機として扱われ、完全に白拍子が主役となった構成です。
こうして同じ名前の曲目・演目なのに、芸能の種類によって解釈が違うというのもおもしろいですね。

今回の体験入学では、別室で行われていた実際のスクーリング風景も見学させて頂きました。
実技の内容は尾上菊之丞先生による日本舞踊。
日舞はまったく初めてという人たちがほとんどだったと思いますが、皆さん本当に真剣でとっても楽しそうでした。

今の時代、日本古来の伝統文化は日常にあるものではなく、誰かにわざわざ教えを請うて行かなければ身につかないものになってしまいました。その文化を受け継ごうとする人が少なくなってきていることも事実です。
受け継ぐ人になれるのか、なりたいのかは別として、こうしたちょっとした体験によって考えるきっかけを与えてもらえたことに感謝したいです。

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